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2024/05/17 (Fri.)

2009
07
09

第3話。

「はい?」

皇帝の執務室、机に向かって黙々と書状を書いている少女。
そのそばに控えていた近衛兵長のタンクレッドが思わず声をあげた。

その少女、_________皇帝アズィーザが唐突にこんな話をしたからだ。

「アバロンには怪盗が出るそうですね」


「怪盗?」

「はい、メイドの方々が噂をしていたもので」

またメイド達の噂話か・・・、女性というものは噂話が好きだなとタンクレッドは苦笑いを浮かべる。

「私はそのような話は聞いたことがありませんね、第一盗みなど城下で
 できるはずがありません。我々近衛兵が警備をしているのですから」

「頼もしい限りですね、でもまだこの話には続きがあるんです」

ふふっ、と意味深な笑みをタンクレッドに向けアズィーザは話しだす。

「怪盗が現れたのは、私が皇帝に就任してから・・・
 それもシーフギルドに足を運んでからなんです。面白い話だと思いませんか?」

心なしかアズィーザの表情が輝いて見える。
何かを考えて・・・たくらんでいるようにも見えた。

「そして怪盗が盗みに入るのは貴族の家ばかりみたいです
 なかなか王道な話ではありませんか?怪盗というより義賊という感じですが」

「まさか、貴族の家となれば警護も厳しくなっているはず・・・
 シーフギルドの者たちといえども侵入は容易ではないですよ」

それに仮にも皇帝に仕えているはずのシーフギルドの者たちがアバロンの城下で盗みなど。
大問題に発展しかねない噂話であった。

「・・・そうまでして私に何か伝えたいことでもあるんでしょうか」

ふとアズィーザが呟く。

「陛下、まさかと思いますがその怪盗に興味がおありなのですか」

タンクレッドの言葉にアズィーザは微笑む。

「はい、是非お会いしてみたいです」

大体の予想はついていたがまさかその通りの展開になるとは。
タンクレッドは思わずため息をついてしまった。

「陛下・・・この件は私にお任せを、所詮はただの噂
 あなた様のお手を煩わせるほどではございません」

「いいえ、ただの噂だとは私には思えません
 ただの噂で終わればそれで構いませんが、実際に確かめてみたいのです」

この方は一度言いだしたら聞かない方だ、まだ短い期間ではあったが側に控えていた
この近衛兵長には大体陛下のことがわかるようになっていた。
そうこうしているうちに、アズィーザは先ほどまで書いていた書状に加えてもう1通書き始めた。
それを書き終えると執務室の外に待機している兵士に書状を持たせた。

「これをシーフギルドのスターリングというシーフに届けてください
 至急お願いします。なるべく本人に直接渡してください」

「はっ、かしこまりました」

兵士は書状携え、足早に城を出て行った。

「なぜ・・・彼に?」

スターリングに書状を出したことについてタンクレッドはアズィーザに問う。

「ついで、というと申し訳ないのですがあのことと一緒に・・・
 それに彼はやる気はなさそうですけど・・・信用はできると思うので」

窓の外を眺めアズィーザはこれからの展開に期待をしていた。


「皇帝陛下からの書状をお持ちした、スターリング殿はおられるか!」

ギルド内に響き渡る声にシーフ達がざわつく。
やけに印象的だったあの少女皇帝からの書状、ただ事ではない、と。

「なに・・・?俺がご指名なわけ?」

カウンターに腰を下ろしていた年若いシーフ、スターリングはいぶかしげな表情を浮かべる。

「あんだけ生意気な態度とってたらそりゃねぇ、腹を決めた方がいいわね」

不敬罪とかだったりして!!と仲間のシーフから縁起でもないことを言われる。
兵士から書状を受けとると面倒くさそうにスターリングは目を通す。

「はぁっ・・?俺が遠征の共に!?なんでまた・・・
 陛下の考えることはよくわからないね・・・」

「断る気?」

「できればそうしたいんだけどっ・・・なんかただじゃ済まなそうな気がするんだよね
 あの陛下のことだから」

前に一度会ったあの時のことは忘れられなかった。
一瞬感じた寒気のことも。

「あの陛下なら・・・面白いかもしれないね」

たまにはこういうのも悪くないかもしれない、そう思うとスターリングは笑みを浮かべる。

ふと・・・もう1通書状があることに気がつく。
それを開くとスターリングの目つきが変わった。

「ねぇ、これ・・・俺にじゃなくてあんたにみたいだよ」

書状をひらひらとさせながら書状を宛てられた本人の目の前に差し出す。
差し出された人物は書状を受け取ると微笑んだ。

「ふふ、陛下気が付いてくれたみたいだ」

「あんた何してんのさ、その内容普通じゃないだろ」

「自分でもそう思うんだけどね、でもじっとしてはいられなかったんだよ
 ・・・遠征の共なんて羨ましい限りだなぁ・・・
 お前が選ばれてなかったら俺がついていきたいくらいなんだけど」

「あんたも相当変わってるな・・・」


その晩、アズィーザは自室のバルコニーに座り込んでいた。
他には誰もいない。月の光だけが唯一の明かりだった。
傍で警護をさせてくれとタンクレッドがねばり続けたのだが。

「まだ、かな」

その瞬間、ふわりとアズィーザを影が覆う。

「来てくれたのですね」

「初めまして陛下、お会いできて光栄です」

現れたのは、赤い髪の男だった。顔の右半分が髪に覆われて見えない。

「あなたが噂の怪盗ですか?」

「怪盗なんてかっこいいものではないんですけどね、結局はただの泥棒ですし
 あ、自己紹介が遅れましたね俺のことはスイフトと呼んでください」

「スイフトさんですか・・・私は、ご存知かもしれませんがアズィーザと申します」

「ええ、よく存じてますよ。あなたがアバロンに来た時からずっと見てました
 先日シーフギルドにいらしたと聞いて不在だったのが悔しいですよ」

ちょっと仕事でいなかったんですよね、と残念そうにスイフトは言う。

「それで・・・私に何のご用ですか?」

「用というほどでもないんです。ただあなたと話をしてみたかっただけで
 ちょっと興味を引こうとしてこんな手段をとってしまいましたけど」

「私は見事に釣られたということですね」

釣られてくださって光栄です、と言わんばかりの顔でスイフトは笑みを浮かべる。
そして、

「陛下、何か俺にも出来ることがあれば手伝わせてください
 どんな些細なことでもいいんです」

アズィーザの前に跪くとスイフトはそう言った。
表情は笑顔のままだが、とても真剣な様子で。
ああ、この人も・・・ステップにいた頃の自分と同じかもしれない。

「スイフトさん、よければ・・・私のもう一つの手足となってくれませんか」

「喜んで、どんなことでもこなしてみせますよ」

「ありがとうございます、スイフトさんとお会いするのはなんだか必然のような気がします」

 

_____________そういえば、ずっと昔に皇帝とシーフが夜のアバロンで出会ったこともありましたね。

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2009/07/09 (Thu.) Trackback() Comment(0) 本編。

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