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2024/05/17 (Fri.)

2009
04
11

第1話。

父や師から話を聞いて帝国の事は一通りは知っていました。
もちろん七英雄の事も。
私も少しでいいので帝国の力になれればと思っていたのですが。

そんなある日私の元に信じられない知らせが届きました。

 


「まさか、お前が皇帝に選ばれるとはな」

「正直私もまだ夢ではないかと思っています」

ステップで遊牧生活を送るノーマッド族、数年前に彼らもバレンヌ帝国の勢力下に入った。
ノーマッド族の現族長、アルタン。彼には一人娘が居た。

「選ばれたからには皇帝としての生を全うするつもりでいます」

娘の名はアズィーザ、歳は今年で19になる。
見た目は一族の女の子と一見した感じでは変わらないように見える。
彼女は父であるアルタンに、一点のくもりのない目で皇帝になる決意を告げた。
その言葉にアルタンの隣に座っていた物腰の柔らかそうな男が口を開く。

「そうか、決めたんだねアズィーザ。いや、陛下と呼ばなければいけないね」

「おやめください、ガルタン様。今まで通りアズィーザとお呼びください
 皇帝になったとはいえ、私は貴方の弟子なのですから」

「でも・・・」

「これ以上は言うだけ無駄だぞ、アズィーザはあれに似て頑固だからな」

そうだね、とアルタンに困ったような笑顔を向けガルタンはそれ以上は言わなかった。
『あれ』とはアズィーザの母親のことである。まだアズィーザが幼いころ魔物との戦闘で負った怪我が元で死んでしまった。

「明日には帝国からの迎えが来るそうだ、・・・恥をかかぬようにするのだな」

「はい、父上。父上のできなかったことやり遂げて見せましょう」

「ふふ・・・言うようになったなお前も」

「父上の娘ですから」

 


「本当に皇帝になるのか」

「アクダ」

父に皇帝になる意志を告げて後はもうアバロンに発つだけだった。
話を終え、テントから出た瞬間に声をかけられる。
アクダ、彼はガルタンの息子でアルタンの妹であるベスマの息子。つまりアズィーザの従兄弟だった。

「ええ、決めたの。昔から思っていたことだったから願ってもないことだったの」

「でもっ・・・アズィーザは・・・女なのに・・・」

「歴代の皇帝でも女性の皇帝は少なくないわよ」

「俺は、行ってほしくない」

「もう決めたの、アクダ皆をお願いね」

 

翌日、知らせのとおり帝国から使者がやってきた。
見慣れない者達の登場でノーマッド族達は騒然となっていた。
アズィーザは皇帝と言う名の生贄にされるんだ、とまで言っている者もいる。

「初めまして、アズィーザと申します」

「!これは・・・本来なら私から挨拶を申し上げなければならないところを・・・。
 失礼いたしました、お初にお目にかかります。帝国近衛兵長を務めますタンクレッドと申します」

アズィーザの前に跪き、タンクレッドと名乗った男はまだ若そうに見えるが近衛兵長だと言う。

「今日から陛下のお側に仕えさせていただきます。何でもお申し付けください」

「ありがとうございます、至らないところが多いと思いますがよろしくお願いします」

タンクレッドは帝国までの道中、これからの事について大まかに説明してくれていた。
話の最中、アズィーザはどうしてもひとつだけ気になることを考えていた。
それをここで問うべきか問わないべきか。

「タンクレッドさん」

「なんでしょうか、陛下」

「・・・迷ったのですけど、最初に聞いておいた方が支障がないと思うのでお聞きします」

何事だろう?何か粗相でもしただろうか、タンクレッドの頭にはそんな言葉が浮かぶ。

「辺境の遊牧民族が、それもこんな若輩者が皇帝になって不安ではありませんか?」

全く予想もしていない言葉だった。
アズィーザはそれに『女帝が少なくないと言っても、女に仕えるのは不服ではないか』とも付け足した。

「私は・・・そんなことで不服に思うことはありませんよ」

「無理をしてはいませんか?」

「お気遣い恐れ入ります。陛下、よろしいですか?皇帝に選ばれたのですから貴方はとても素晴らしい方なんです
 どうか自信をお持ちください」

自分の言葉に偽りはなかった。
タンクレッドの言葉にアズィーザは微笑む。

なんと、綺麗な笑みなんだろう。

「おかしな質問をして申し訳ありません、でもお聞きしたかったのです」

「お気になさらず。・・・でも、そうですね・・・」

「どうしましたか?」

「ひとつだけ、不満を申し上げてもよろしいですか?」

はい、と返事をして姿勢を正すアズィーザ。表情は真剣そのものだった。
ここまで畏まられると言いにくいものだ・・・、タンクレッドは苦笑いをする。

「陛下の・・・私への言葉づかいはなんとかならないものでしょうか」

「言葉づかいですか?」

「・・・その、私は陛下に仕える身ですので丁寧な言葉づかいは無用かと思います」

「ああ・・・師に年上の方への敬意は怠ってはいけないと言われて居りますので」

年上とは言っても皇帝とその部下なのだから敬語は全く必要ないのだが。

「しかし私は・・・」

「私はこのままでも構わないのですが・・・いけませんか?」

「仕方ありません・・・でも必ず直していただきます」

「タンクレッドさんもかなりの頑固者ですね・・・」

 

こうしてアズィーザ新皇帝はバレンヌ帝国の首都アバロンに足を踏み入れるのである。

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2009/04/11 (Sat.) Trackback() Comment(0) 本編。

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